2002年08月31日

老いぼれ沢屋のタワゴト (事故・遭難への警鐘を込めて)

野々村修一

 君の無事下山、何より嬉しかった。君の母上から無事下山の電話を頂いた瞬間、思わず大声で叫んだ。何を言ったか記憶に無いが、大声を上げた。大仰な表現だが、爆発する歓び、世界がパツと開けた感じ。只、只、嬉しかった。
 実は一昨夜は殆ど眠れなかったのである。普段、少々のトラブルが発生しても、寝る事だけは忘れない私だが、昨夜だけは妄想にかられて眠れなかった。その妄想の元は、屋久島に関する様々な情報。
 その一、屋久島の沢は、降雨と同時に増水するとのこと、それも見てる間に激流になるとの申そして君の山行日程の最中、連日物凄く降ったとの現地からの報告。通常、我々沢屋は、沢でビバiクする場合、テント場は少々増水しても大丈夫と思われる台地を選ぷ。更にそれ以上の増水をも見込んで、それからの逃げ道を考慮するのである。先ず、君が此のことを熟知していたか、どうかが心配であった。熟知していても、その沢筋には一そのような適当なテント場が無かったかも知れない、等々。ヒョッとして、熟睡していて、急激な増水に気づかず、君がテントと共に流されて行く情景を想像する。そうなると、遺体の捜索は困難を極めるに違いない。妄想は次から次へと駆け巡る。
 その二、屋久島のヤブは、並大抵のヤブではないとのこと。足の踏み場も無いくらいに樹木が密生して、入り込んだら脱出困難とのこと。私もヒドいヤブを彷徨ってバテた経験が二、三度あり、君も、迷走の果て体力消失、と同時に思考力喪失でヤブの中でブッ倒れている情景をも想像する。どうぞ死力を振り絞って登山路まで出て来て欲しいものだ。又々勝手な妄想をする。その三、屋久島警察2言に依れば、君の入った沢はチョとや、ソッと遡行出来る沢では無いとのこと、(ガイドブックでは中級と書いてあったが)ヒョッとすると、悪場で進みもならず、戻りもならず、思案に暮れている君の姿を想像する。パiトナーが居たならアンザイレンしながら、安全に脱出出来るのに、一人では到底叶うまい。次から次へと妄想する。
 シマッタ!君の山行届けを聞いた時、何故単独遡行は止めて欲しい、と言わなかったのか。いやいや、たとえ私が止めても、この盆休みの屋久島の沢遡行を、以前より計画し、且つ同志を募っていただけに、君は到底中止する筈は無かろう。だから君の勝手だと納得しようとして、納得出来ず、支離減裂の思い。何とか眠ろうと目をつぷって寝返りを繰り返す内、夏の夜は白々明け、皐々に起きる。先ず、今後の対策を協議するために、出勤前の会員各位に、今夜集会のお願いの電話をいれる。そして、それが終わった処に、君の母上よりの無事下山の電話。何遍も言うのでは無いが、本当に嬉しかった。本当に。
 それから後は、ルンルン。各会員に電話。無事を共に歓ぷ。さて、話は、ここから本筋となる。
私の日課として、毎朝、仏壇にお題目を称えて先祖供養をする。仏教信者ではないが、これを遣ると何となく気が休まるのである。お題目を終え、先祖供養の回向を上げ、過去帳より本日命日の物故者の回向をする。なんと、その日は、私の母の命日なのである。二十年前に亡くなった母の命日なのである。途端に、君の母上と、私の母とがダブった。私も、私の山行で母に心配を掛けたことを思い出したのである。私の山行の帰りが遅いと、母は仏壇に手を合わせ、無事を願い、その足で、最寄りの駅に来て、私の帰りを待っていたどのこと、そして、私の帰って来るまで、仏壇、駅と何遍も往復したどのこと、私の両親と同居していた家内が、私に話していたのを思い出したのである。家内からその話を聞く度に、私はセセラ笑っている薄情者であった。その日の仏壇の前での私は一寸違っていた。老いさらばえた母が仏壇の前で手を合わせている姿、そして、祈るような気持ちで駅の構内で、停んでいる姿が、鮮やかに浮かんで来たのである。ああ、なんと親に心配掛けたことか、思わず目頭が熱くなった。恥ずかし乍ら、この齢で親不孝をシミジミと認識した次第である。多分、母だけでなく、他の人々にも、迷惑を掛けていたのではないかと思う。
 私の母は既に亡いが、君の母上は現存されている。君に忠告出来るガラではないが、これからは母上に、御心配を掛けないようにすること、これが、君が後悔のない人生を送る為の一つの方法だと思う。危険を伴う沢登りの単独行は心配の根源。複数の仲間と安全に、まわりの人々に安心を与えて登りたいものだ。
 君の無事下山の日が、私の母の命日であったこどは、単なる偶然でないようだ。なにかを、私たちに語り掛けているように思う。どうぞ、君は還しい沢屋であると共に、心優しい息子であることを祈る。
合掌
posted by 飄逸沢遊会 at 12:25 | TrackBack(0) | エッセー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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